堺では、生成りを晒して「さらし」を作る晒業は300年の歴史があります。
同時に「さらし」を染めて浴衣やはっぴなどの生地を作る染物業が、戦後、大阪市内から移転してきて、一緒に発展してきました。
目次
晒(さらし)て何なの?
晒(さらし)とは、織物の原反から脂分や糊などの不純物を取り除き、漂白し、品質を均一にする工程、または漂白された糸でできた織物をさします。本来は生成色(きなりいろ)の木綿や麻が漂白されます。
加工品として、ゆかた、はっぴ、はちまき、てぬぐい、おむつ、腹帯、ふきん、ガーゼなど非常にたくさんの品目があります。
洋晒しと和晒しの違い
堺市の石津川沿いに7軒の和晒工場があります。このたった7軒で、なんと日本の和晒の90%以上が生産されています。
和晒は、江戸時代からずっと同じやり方で、今でも「釜」で炊くことにより晒加工を行っています。
同じ木綿の生地でも、ワイシャツやTシャツなどは、和晒よりも巾の広い生地で作られています。
これらは「連続自働精錬機」とよばれる機械を使い、40分ほどで晒加工品に仕上がります。
生地に常時圧力をかけた状態で精錬するので、木綿の繊維はやや扁平になります。
一方、和晒は、2日から4日間ずっと釜にいれた状態で、煮られながら精錬され、水洗いで洗浄し、次々と工程に重ねていきます。圧力がかかっていないので仕上がった木綿の繊維の断面は円形を保っています。
この円形の状態が、「日本の染色」にはもっとも重要な要素となっています。
注染和晒しは染料を生地の上から注ぎ込んで染めます。繊維と染料がほんの一瞬接触するだけで、ふんわりとした繊維は吸収が良いのでスッと染まります。
洋晒しと和晒しのちがい
洋晒し | 和晒し | |
---|---|---|
設備 | 連続自動精錬漂白機 | 日本でも希少な和晒釜 |
晒し時間 | 40分 | 48時間~72時間 |
仕上がり | 糊剤・柔軟剤・樹脂 顔料等化学物質を添加 |
無添加 |
繊維断面 | やや楕円形 | ほぼ円形 |
風合い | 固め | 柔らかい |
引用元 https://www.osaka-orisen.com/
堺・注染和晒(ちゅうせんわざらし)の歴史
注染和晒は、地元で晒した晒木綿を堺独自の手法で染めて、ゆかた生地などを作る伝統産業です。
ゆかたの語源は、湯帷子(ゆかたびら)からといわれています。
夏の麻のきもの。古くは片枚 (かたひら) と記し,裏のない衣服をすべてこう呼んだ。
平安時代中期(10世紀前半)ごろより湯帷子(ゆかたびら)は入浴(当時は蒸し風呂)の際に、水に強く水切れの良い「麻」が使われていました。江戸時代初期(17世紀前半)ごろになると生活様式も変わり、水を溜めた風呂に入浴するようになります。このころから庶民も豊かになり、入浴後の汗取り、水切りのため適した「木綿」素材(和ざらし)のゆかたを使うようになります。
ゆかたは湯上り後のくつろぎ着として普及し、その後、盆踊りの時に着用したり歌舞伎役者が楽屋で用いたりするようになりました。やがてゆかたにお洒落感が求められファッション性が出てきて様々な色柄が施されるようになりました。現在のゆかたの原型と言われるものです。
泉州地区(大阪府南部)は古くから木綿栽培が盛んでした。とくに江戸時代には米より収益のよい木綿栽培が増加し、最盛期には全耕地の40%を占めていました。
堺の津久野毛穴(けな)地域周辺は、大阪という大消費地と綿生産地との中間に位置し、晒(さらし)に必要な大量の水を供給できる石津川が流れていることから、晒業が発達しました。
もともとは、晒業だけでしたが、第二次世界大戦の戦火で大阪市内のゆかたの染色業界が和ざらしの産地である堺に移転してきました。そこで、染物業も一緒に発展していきました。
堺・注染和晒(ちゅうせんわざらし)の技法と特徴
注染法とは、その名のとおり、布の上に染料を注いで着色する多色染めの技法です。
折りたたまれた布地の染色する部分に防染糊で「土手」をつくり、その土手の中に染料を注ぎ込みます。
注ぎ込まれた染料は布の下に配置された真空ポンプで吸い出されます。
注ぎ込む染料の量と真空ポンプの操作により、染料の浸透度が決まります。
また、染料が布地を通過するので、洗っても色落ちせず、布地の表裏両面に染まるのが特長です。
洗うほどに肌なじみが良くなりますので、昔は着つぶした浴衣などを、おしめに仕立て直して再利用したようです。赤ちゃんの柔らかい皮膚に優しい木綿のおしめが今でいうリサイクル・リメイクで合理的だったのでしょう。
堺の伝統産業、和晒を守り続けている企業
- 市岡染工場
- 株式会社 大盛染工場
- 角野晒染株式会社
- 神奴染工場
- 株式会社 北山染工場
- 株式会社 協和染晒工場
- 株式会社 三共晒
- 十代染工場
- 太泉晒染工業株式会社
- 株式会社 ダイヨーセンコー
- 株式会社 武田晒工場
- 竹野染工株式会社
- 株式会社 ナカニ
- 株式会社 西川由染晒工場
- 株式会社 日野谷整理工場
- 株式会社 丸三染晒工場
- 株式会社 マルシン晒工場
- 株式会社 マルヤマ
- 水本染工場
- 有限会社 ミヤグチ
- 宮本整理工場
地元では、かつての盛況を伺い知ることができる、古い屋敷が並んでいます。
和ざらし商品の種類
ゆかた はっぴ 鉢巻 てぬぐい ハンカチ 介護用寝巻き ガーゼ寝巻き 腹帯
おむつ ふきん ストール 包帯 など多品目があります。
引用元:竹野染工株式会社
木綿生地の製品は、日本人の日常生活で古くから使われてきた不可欠なアイテムです。
使うほどに、なじみ良くなり温かみを増す、天然素材ならではの使い心地となります。
肌へのやさしさは、洋晒しや化学繊維とは全く異なり、本物思考の原点だと思います。
まとめ
肌に優しく、アレルギーも起こしにくい天然素材、木綿の和晒し。
かつては、チープなイメージの綿100%でしたが、今や最高の贅沢品となりました。
それでも、人間にとって永遠に欠かせない不滅の素材だと思われます。
和晒しの世界にも、現在風の斬新的な手ぬぐいやユニークなアイデア柄のゆかたなど、企業努力によって、進化が見られます。
海外からの観光客が日本独特の和風土産として、ゆかたや手ぬぐいを買って帰ってくれます。
年々盛り上がりを見せている地元「だんじり祭り」の衣装など、まだまだ需要が盛んです。
堺の誇りある伝統産業を守り続けていただけることを願っています。
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